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鳩ぽっぽ

よろずにかきちらしてまする。

2024'11.27.Wed
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2007'01.23.Tue
「はっ、はっ、はっ」
これほど全身全霊で、俺に公衆電話を!と求めたことは今だかつてない。
理由は、面倒くさがって昨夜携帯を充電しなかった報いを受け、頼子との通話中断を余儀なくされたから、である。
真冬ということもあり早い時間から日は没したが、昼間のように明るい街中をシンタローは白い息をはいて疾走していた。

『シンタローくん。ほら、見』(ブツッ)

…これでは続きが気になるし、気になって当然だろう。
そう言い訳しながら、シンタローは走る。
頼子は、同じ中学のクラスメイトで、リスみたいにでかい瞳をした、前髪ぱっつんカットのあまり目立たないタイプの女子だった。
同じクラスになって半年だというのに、初めて話をしたのもごく最近のことで、自転車をパンクさせてしまい、立ち往生していた頼子を気まぐれで助けたのがきっかけだった。

今日は帰宅時、互いに一人身状態のまま偶然校門で鉢合わせ、成り行きで二度目の帰宅を果たしたのだが…シンタローは不思議と嬉しかった。
理由は、本人にもよく分からなかったけれど。

しかし楽しい時というのは超高速で過ぎ行くものである。
お別れとなる十字路に差し掛かり、意外に盛り上がっていた話が途中頓挫する危機に陥った。
二人は立ち止まり、なんとなくへらっと曖昧に笑いあいあった後、どうしようかと互いに困窮していたところで、シンタローが「携帯で続き、…話さない?」とうっかり口走ったことによりに会話は一先ず継続となったのだが。

シンタローは足を止めた。
もし万が一電話が間に合わなかったとして、別れの挨拶すらしていない自分を失礼な奴だ、なんて思われてしまったらどうしよう。
ぼけっとしている頼子は多分、そこまで思考の発展はないだろうとは考えるのだが、メガティブな可能性ばかりが頭を占拠してしまう。
…いや大丈夫。ファイトだ、俺!
シンタローは雑念を頭を振って追い払うと、再び走り始めた。
「やばいなー、もうトンネル抜けちまうかも…」
目に見えぬリミットに、気ばかりが焦る。
頼子は一時間に一本しかないローカル電車で中学校に通学している。
住んでいる所は夏には水田、冬には畑が一面に広がるド田舎で、山をくり貫いた長いトンネルを抜けると携帯の電波すら届かなくなる。
すなわちトンネルを抜けるまでに通話を再開できるかが勝負なのだ。
自宅に電話する勇気などは、とてもではないが持ち合わせていない。
(……あ!)
それを射止めたとたん、不覚にも泣きそうになった。
冬の電飾が巻かれ、やたらチカチカ光る電話ボックスを見つけるやいなや、歓喜したシンタローは転がるように駆け込むと、
早速ズボンポケットの小銭をまざくる。面倒なので全部指でかき集めて引き抜き、手のひらに硬貨を並べて確認した。
公衆電話は、一分十円。
だが、手のひらにあるのは百円、五十円で十円は一枚もない。
「百円使うのか…」
勿体ねぇな。
損得感情が一瞬シンタローに働いたが、ふっと浮かんだ頼子の笑顔を思い出した次の一秒後にはもはや迷いなく百円玉を投入していた。
ジャラン。
重みのある金の接触音。十分百円が、電話会社の財布へと吸い込まれた。
忙しくもう一方のズボンポケットをまざくり、紙切れ端に自身の汚い字で走り書きされた携帯番号の一番左から慎重に数字を押し、受話器を耳に押し当てる。

プルル、プルルルル……。

やがて、数度の呼び出し音の後。

『…シンタロー君?』

囁くような甘い声があまりに近くで響いたので、驚いたシンタローは思わず飛び上がった。
シンタローは動揺に上ずる声に平静平静と暗示をかけつつ、ようやく応答する。
「よ、よぅ……はは、ごめん。電池いきなり切れてさ。間に合ってよかった」
『うん。でも、話せるの、あとちょっとかもしれない…』
それを聞いて内心落胆するも、一先ず安堵した。
とりあえずは謝罪して、会話を再開することができた。
思えば、こうして彼女と電話するのは今日が初めてで、一緒に帰ったのも二度目だ。
では三度目はあるのだろうか…。
『…どうしたの?』
「え、あ。いや、なんでもない!」
我に返ったシンタローは、俺はバカかと顔を赤らめながら、ふいに、途切れた頼子の言葉を思い出した。
「…そういえ、話の続き、なんだった?」
『…うん、大した事じゃないの。ね、シンタロー君。月、見える?』
シンタローは電話ボックス越しに、夜空を見上げた。あと数日で満月になりそうな不完全な冴月が美しく輝いている。
「ああ、満月になりかけの半端なやつ?」
『ふふ。でも、ちょっと欠けてる方が満月のありがたみが増すよ』
「そーか?」
彼女の潜めた可愛らしい笑い声が、鼓膜を擽る。
『そう。きっとそうだよ。……今、私。月、見てるよ』
「うん。俺も、今見てる」

そろそろ頼子を乗せた電車はトンネルを目前にしている頃だろう。
あと何秒、何分何十円分、頼子と話ができるかなと思案しながら、どこかを走る電車で、同じように月を見上げているだろう頼子を思った。



fin.


**

なんかに使った短編です。
なんだ、字数制限と戦ってかいた記憶が…。
なぜか前髪ぱっつんの女の子ばかりをヒロインにしてしまう。
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いろは
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非公開
自己紹介:
ロボ戦闘が大好き。
マイナーかもしれませんが、1stよりイデオン好き。
王道恋愛ものが三度の飯より大好きな少女頭。
とともにイデオン好きというところからお察しください。
そっちも好きです。

ネオロマは遙か3シリーズとGS2を少々。
プロ積みゲーマーなので20本以上待機…絶対プレイできないと思いつつ、いつかいつかと思い、また新作に手を伸ばす。
そんな泥沼ゲーム好きです。


プレイ中!
清春最愛~




すきすき!


ライドウ同盟


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